企業長 佐藤 尚文のイメージ

公立富岡総合病院、公立七日市病院、在宅医療支援センターの三施設が、富岡地域医療企業団として再出発したのが2018(平成30)年4月です。地域医療を進めるにあたり理念として全職員で確認したのは、地域住民こそが当組織のクライアントであるという事でした。
従来より“患者中心の医療”という理念と、更に運営の基本方針として具体的に下記の5項目を掲げています。

  1. 一人一人の人権と尊厳を尊重し、質の高い医療提供に努めます
  2. 地域医療の中核として関係機関との連携を図り地元のニーズに応えます
  3. 富岡地域医療企業団として高い公共性と倫理性の基づいた事業運営に努めます
  4. 全職員が、生きがい、やりがいを感じられる職場作りに努めます
  5. 企業団として地域医療構想に対応します

医療環境の激変は今回の新型コロナ感染症のパンデミックで加速され、厳しい経験をすることとなりました。当企業団では感染症法上2類であった2020(令和2)年2月より2023(令和5)年5月までに、6,255人の陽性患者と941人の入院患者に対応しました。時々刻々と変容するウイルスと制度に翻弄されながらも、多職種チーム医療を最前面に押し出し、特に感染対策チームに権限を持たせて対応できたことは、大きな成果でもあり自信につながりました。実は感染症法の5類になってからもこの2023(令和5)年9月20日現在で更に100人以上の入院患者に対応しており、このパンデミック感染症が通常のウイルス感染症として常態化していくものと覚悟を決めました。またこの4年の歳月の間、沈黙のなかで着実に進んだのは高齢化と地球温暖化、災害の頻発と戦争でした。別図で富岡地域の高齢化率38%を示します。日本は現在高齢化率29%であり、これが年々増加して現在の富岡地域と同じ38%になるのは30年以上先の2055年と予想されています。すなわち富岡地域が直面している高齢化の姿は、全国平均の30年先を走っているということです。日本の平均的な地域の病院にとって30年後の社会を想像することは困難と思います。私たちはまずこの現実を見据えこの地域で求められる医療とは何か?という根源的な問いを反芻しています。臓器や疾患を見る医療はガイドライン化がし易いし、新薬や新しい医療機器を用いた医療は医療者を酔わせます。しかし後期高齢者や更に人生の最終章に差し掛かった人々への最善の医療を模索するならば、疾患のみならずその人の生活を鑑み、更に人生観や死生観をも念頭に置いた、いわば全人的視野から生み出された医療であることが重要であると考えます。公立富岡総合病院、公立七日市病院で固有の役わりを持ちつつ連携し、更に在宅医療支援センターの訪問看護事業を有機的に1つの組織として運営し、地域住民の生活を支えることこそが私たちに託された使命と考えています。

富岡地域医療企業団企業長 佐藤 尚文

高齢化率のグラフ